ダムといえば、巨大なコンクリート構造物によって、
一年中ずっと水が大量に貯まっているものを想像すると思います。
一方で、「穴あきダム」というものもあります。
穴あきダムとは、通常時は水が貯まっておらず、大雨時のみ水が貯まるというものです。
しかも、ゲート操作等を行わずに運用できるのが穴あきダムの特徴です。
今回は、穴あきダムの基本原理について取り上げます。
ベルヌーイの定理
穴あきダムの基本原理を説明する前に、まずはベルヌーイの定理についての説明です。
ベルヌーイの定理は流体力学における基本的な定理の一つです。
適用には非圧縮、非粘性、渦無し等がありますが、
自然界のマクロな水の流れには概ね適用できます。
・・・①
v[m/s]:流速
p[Pa]:圧力
ρ[kg/m3]:密度
g[m/s2]:重力加速度
h[m]:基準からの高さ
①式は、エネルギーの観点で記載していますが、
自然界の水問題を考えるときは、②式のように水頭の観点で書いた方が便利です。
・・・②
トリチェリの原理
ベルヌーイの定理について、条件を狭めることで導かれるのがトリチェリの原理です。
下図のようなモデルを考えます。
v[m/s]:流速
p[Pa]:圧力
ρ[kg/m3]:密度
g[m/s2]:重力加速度
h[m]:基準からの高さ
A[m2]:断面積
添え字は各地点を示す。
地点1、地点2においてベルヌーイの定理を適用すると以下となります。
・・・③
③式を少し整理します。
・・・④
流量V[m3/s]とすれば、各断面積と流速で表します。(連続の式)
・・・⑤
・・・⑥
ここで、p1=p2=p0(大気圧)と考えれば、p1-p2≒0と出来ます。
また、基準からの高さの差、つまり高低差をH=h1-h2として、
④、⑤、⑥式より、整理します。
・・・⑦
⑦式をもう少し整理して、v2について表します。
・・・⑧
ここで、⑧式の分母に注目すると、A1>>A2のとき、
つまり、A1の断面積がA2の断面積より極めて大きいとき、A2/A1≒0となることから、
・・・⑨⑨式がトリチェリの定理といわれるもので、
流速を重力加速度gと高低差Hのみで表せます。
また、⑨式から、高低差が2倍になっても流速は√2倍にしかならないので、
流速の上昇が緩慢になります。
穴あきダムの効果
穴あきダムの効果をサンプル計算で確認してみます。
以下の条件を設定します。
ここでは、穴径を複数設定してパラスタします。
流入条件は、300秒まで線形で増加、1800秒まで一定、その後少しずつ減少、
という感じにしてみました。
① A2=1のとき
まずは穴径を小さめに設定した結果は以下のグラフです。
水位は21m弱まで上昇、下流の流量は20m3/s程度にとどまります。
② A2=2のとき
結果は以下のグラフです。
水位は17m弱まで上昇、下流の流量は36m3/s程度にとどまります。
③ A2=5のとき
結果は以下のグラフです。
水位は10m弱まで上昇、下流の流量は69m3/s程度になりますが、
ピークは下がっています。
④ A2=10のとき
結果は以下のグラフです。
水位は4.4m弱まで上昇、下流の流量は93m3/s程度になりますが、
それでもまだピークは下がっています。
⑤ A2=20のとき
結果は以下のグラフです。
水位は1.3m弱までしか上昇せず、下流の流量はほぼ100m3/s程度になってしまいます。
これではほぼダムの意味がない水準なので、穴が大きすぎるということです。
サンプル計算で穴あきダムの効果を確認してみましたが、
このようなパラスタにより以下のことがわかります。
①穴径を相対的に小さくすれば、水位上昇は大きくなるが、
下流の流量を大幅に抑えられる。
②穴径を相対的に大きくすれば、水位上昇は小さくなる。
これはダムの建設費が抑えられることを意味するが、
下流の流量が大きくなる。
流域の降雨条件の設定が最も大事なのは言うまでもありませんが、
これらを勘案しながら、ダムの規模、穴径の設定が必要になります。